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第27回 『てるこの絵手紙』まえがき

姉妹のように育った耀ちゃんが、人生の締めくくりに本を出版したいと言い出しました。三つ編みでSKD(松竹歌劇団)の川路竜子や小月冴子にお熱を上げていた耀ちゃんと、おかっぱで勉強ばかりしていた私が、「締めくくり」の話をする日が来たことに驚き、重ねてきた年月の長さを改めて想うと同時に、離れて暮らしていた間に耀ちゃんが積み上げてきたものを知る機会が訪れたことに感謝しています。

 スイスで暮らすようになって十余年が過ぎ、その間に耀ちゃんから届いた絵手紙は、私の心を和ませ、やさしく励ましてくれました。こんな才能がどこに隠れていたのか、と首をひねっていましたが、今回、経歴を見て、すべてが努力の結果だったことを知りました。耀ちゃんとは親子ほどに歳の離れた私の母は、四人兄弟姉妹の長女で、絵にも書にも、そして運動にも天才的でした。耀ちゃんはその母からは平凡な妹と見られていたようですが、なんと、隠れた才能が努力によって花開きました。亡き母も、きっと「よくやった」と褒め称えるでしょう。

 本来なら私の率いる「静山社」から出版したいところですが、なにしろ「ハリー・ポッター」の出版で知られ、ヤングアダルト向けのファンタジーを中心とする出版社なので、せっかくの耀ちゃんの傑作集を本にする技量に欠けます。文芸社にお任せして、私は「妹」として応援することにしました。

 耀ちゃんはいまだにEメールを使いません。あくまでも手描きの絵と文字にこだわり、一通一通に真心を込めて、受け手の喜びと幸せを祈っています。絵手紙仲間からは同じように心のこもった返事が届き、自らの人生が豊かになる幸せを味わっていると聞きます。絵手紙のすばらしさは、受け取ったことのある人はよくわかるはずですが、心から心へと受け渡されることです。私は70歳を過ぎてもまだ出版の世界で夢を追っているので、隠れた才能である(はずの)絵手紙には手を出す余裕がありません。でも耀ちゃんや私のような東北人にとっては「い」も「え」も同じ発音ですから、耀ちゃんの「えメール」は私にとっては「イーメール」、そして「いいメール」なのです。これからも絵メールを受け取る楽しみを味わいたいと思い、耀ちゃんには応援のエール(イール?)を送る次第です。どうぞ多くの方にこの本が届き、耀ちゃんの想いが、みなさんの心に、やさしく、力強く響きますよう。

魔法の国にEメールはありません。
フクロウが絵手紙を配達します。この本も
フクロウ便でみなさんの心に届きますよう。
ハリー・ポッター翻訳者 松岡佑子

平成29年 よき季節に  スイスにて 松岡ハリス 佑子


『てるこの絵手紙』については下記をご覧ください。
https://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-19006-8.jsp

<東京新聞にて紹介されました>
<ひとキラリ>絵手紙で被災地に勇気 流山の小平さんが作品集