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「色」
エメラルド、スミレ、紫、淡いブルー、オレンジ・・・・・・「ハリー・ポッターと賢者の石」の第一章に出てくる色だ。私のハリー・ポッター物語が始まった、あの記念すべき夜、ホテルの一室で読みふけったこの本の最初の印象は、色の鮮やかさだった。もちろん、同時通訳者の性で、読みながら日本語の台詞が聞こえてきたのも確かだが、色にも魅せられた。
ローリングに最初に会ったとき、色の鮮やかさを誉めたら、「絵を書くのが好きなの」と答えた。親近感を覚えた。私も絵を描く。素人の手慰みだが、イメージを絵にするのが好きだ。母が絵を描くので、小さいときから絵を見て育った。それに、あのころの田舎には美しい自然の色彩が溢れていた。春先の柔らかな草花の色、豊かな新緑、真夏の真っ黒な空に激しい稲光、蝉の抜け替わる色の変化、黄金の稲穂、紅葉、真っ赤な夕焼け、一面の銀世界。子供心に見た色の印象は鮮烈だ。
友人のダンにハリー・ポッターの表紙の絵を描いてもらうことにしたとき、不安がないわけではなかった。表紙も挿絵も経験のない画家だ。しかし、ダンの描くパステル画は、色が美しかった。それが私を決心させた。それでもダンには何度もダメを出したが、白ふくろうを真ん中に配したあの深いブルーの絵を見せられたとき、これでよしと思った。理屈ではない。ピンとくるものがあった。小関潤さんがその絵を濃紺のバックで装丁してくれた。これで完璧だと思った。表紙が暗いと売れないと忠告してくれる人もあったし、たしかに書店には明るい色彩の本が多かった。しかし、私の確信は揺らがなかった。これで勝負!
愛読者カードが届き始めたとき、「表紙の絵に惹かれて買いました」という言葉を見つけると嬉しかった。中味を読んでもらうには、まず手にとって貰わなければならない。常識を破った地味な色が、あの物語の神秘性を引き出したのだと思う。
それ以来、ハリー・ポッターシリーズの表紙は彩りを重ねてきた。「秘密の部屋」が深紅、「アズカバンの囚人」が深緑、第四巻の「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」は二分冊だが二冊とも藤色。美しい本を作りたいという私の願いが叶った。七冊揃ったとき、私の虹の橋は完結する。本棚に並んだ七冊を眺めながら、思い出に耽る日が来るのは何年先か。来年、英語版の「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」が発売され、その後順調に進めば、その日は二千五年に来る。
(「新文化【風信】」2002年10月3日号掲載)
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