ホーム コラム・エッセイ とんがり帽子の魔女対談 安井泉先生 × 松岡佑子


安井泉先生 × 松岡佑子 (2014年05月12日)

 2014年4月11日に安井泉氏(『英語で楽しむ英国ファンタジー』著者)と松岡の対談が行われました。講演の行われた日比谷図書文化館からレポートを寄稿いただきました。

ハリー・ポッターと不思議の国のアリスが出逢ったら......
翻訳がつなぐ文化とことば

 2014年春、桜の開花と共に来日されたハリー・ポッターシリーズの翻訳者松岡佑子さん。
 このたび、東京・千代田区立日比谷図書文化館にて、日本ルイス・キャロル協会会長の安井泉先生と当館主催の日比谷カレッジ 春のスペシャル対談『ハリー・ポッターと不思議の国のアリスが出逢ったら......翻訳がつなぐ文化とことば』の講師としてご登壇頂きました。

  文化の本質に迫る手がかりを与えてくれるもののひとつである「ことば」。
 特に、ファンタジーは印象的な「ことば」で語られます。その「ことば」に託されている様々な意味が理解できると、「ことば」が持つ雄弁さ、奥深さに気づかされます。
 翻訳者の方々は、原語でしか感じることのできない文体のリズムを、原文の持つユーモアとウィットを残しながらどのように日本語に「翻訳」しているのでしょうか?
 「ハリー・ポッター」と「不思議の国のアリス」という英国の作品に深く関わったお二人の対談を通し、文化をつなぐ新たな「ことば」の世界が見えてきました...。

 講演会当日、定員200名の会場はほぼ満席。

 会場では、先生方のおすすめ書籍を展示。

はじめに、松岡さんのトーク。
 今回のために作成頂いたオリジナルのパワーポイントのタイトル名は「花子とアン」ならぬ「佑子とハリー」という旬なタイトルで講座がスタート。
 続いての安井泉先生のトークは、'ものを読む'ということ、ことば遊び、表現のバリエーションなどに触れた後、不思議の国のアリスの研究をしているけれど、実は、アリスが嫌いだったという話まで飛び出しました。「挿絵が怖い。翻訳の作業でこれでもかというほど読んでいるはずなのに、読むたびに言葉遊びの発見がある。他の言語学の本は、翻訳しながら精神的に遊ぶことができなかったけれど、アリスはとても楽しい。」という、ルイス・キャロルの作品の魅力をたっぷり伝えて頂きました。

 その後は、魅力的な作品をそれぞれ翻訳された、作品愛に溢れたお二人の対談。
 参加者休憩中の控室では、参加者から集めた質問を限られた時間の中必死に仕分けして頂いておりました。。。

 長年、翻訳という仕事に向き合ってこられた先生方は息がぴったり。
 「通常の翻訳はレースだが、言葉遊びが入ってくると障害物競争の石のようなもの。掛け算、割り算ができない世界。机の前にいればできる世界ではない。」と安井先生が切り出せば、松岡さんも「翻訳は孤独な障害物競争、と私も書いておりました。」とのこと。
名訳というのは、トイレや歩いているとき、入浴中など、机に向かっていないときに案外浮かんだりするそうです。

 英語のグローバル化について、安井先生は「英語=いまはアメリカ化が強くなってしまっているように感じるが、本来は、'言語'は'文化'を衣類している。共通語の英語はもはや、文化を脱ぎ捨ててしまったようだ。言葉を通しての'文化'を大切に愛してほしい。」と、翻訳と文化について語ると、松岡さんも「質問に'どこの出身か'という項目があったが、ハグリットの翻訳のときに故郷の東北のなまりを潜ませた。これは、日本文化と日本語に対する愛着。」とご自身のルーツに関するエピソードも。

 他にも、「モノを作るのに必要なのは?」「ファンタジーブームはもう終わってしまったのか?」などのたくさんの質問に対するご回答も頂きました。

 印象的だったのは、「本は何を返してくれるのか?」という質問に対して、 「本は、そのときに自分の持っている等身大のものしか返してくれない。20年後に読んで、何か発見があったら、それは自分が成長したり読む力がついて気づいたということ。それがそのときの自分。」という答え。
 読み返す度に発見がある本は、その本自体の奥深さだけでなく、自分自身も成長したからこその気づきでもある。本というのはその時の等身大の自分を写す鏡でもあるのですね...。

 最後に、松岡さんが、安井先生の著書『英語で楽しむ 英国ファンタジー』(静山社)より、共感されたという箇所をご紹介します。
 「わたしたち大人は、ファンタジーを読むと、子どものときに読みたかったものに出会えたような気持ちになります。子どもの頃からの長い時間が一瞬にしてなくなり、煩わしい日常を忘れて、無垢な子ども時代に返ったような気にもなります。人生で紡いできた時間が消えるのです。しかし、消えてしまったように見えるこの時間は、ファンタジーを読むときの復元力として、私たちに気づかれまいと目まぐるしく働いてくれているのです。」
...みなさんがファンタジーがお好きだとしたらそれは、みなさん自身の生きてきた経験から生まれる想像力でもあるんですよ、と、ハリーとアリスに教えてもらった気がしました。

作成 日比谷図書文化館 川崎 亜利沙

※ 日比谷図書文化館ブログにも当日の様子が掲載されています。
  日比谷図書文化館ブログへ→

講演会後、ファンの方から素敵なお手紙をいただきました。

K.Uさん、ありがとうございます。

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